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翻訳記事「自閉症を克服した子供たち」 (その2)

元記事:The Kids Who Beat Autism By RUTH PADAWER, JULY 31, 2014

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自閉症は一生涯にわたる発達障害だと考えられていますが、その診断は行動上の特徴の組み合わせやその織り成す模様を元になされます。社会性の困難や、関心の固着(こだわり)、強迫的・反復的な行動や、感覚刺激に対する極端に強い/弱い反応など。それというのは、これまでのところでは、信頼できる生理学的な指標が発見されていないためです。自閉症の症状は成人期には弱まっていくことがしばしば見られますが、その核となる症状は残るというのが一般的な共通見解です。ほとんどの医師は、自閉症から回復するという考えを、希望的観測にすぎないと却下してきました。これに対して、様々な仮説的治療法がインターネットで喧伝されてきました。ビタミン注射や栄養サプリメント、解毒剤、特殊な食事療法、純酸素で満たした加圧室や、キレーション(体内の重金属を除去するという、危険性のある療法)などなど。しかしこれまでに、こうしたもののいずれかが自閉症の核となる症状を和らげたり、ましてや根治したりするなどということを示す証拠(エビデンス)はありません。

自閉症者が回復しうるという考えは、1987年にABAを開発したロバースが研究論文を発表した時にはじめて根付きはじめました。その研究では、自閉症の未就学児19人に週40時間以上の個別ABAを実施し、行動に構造化されたプロンプトの計画に基づき、報酬や罰を用いて、特定の行動を強化し、ほかの行動を「消去」するというものでした。(また、同数の子供を比較対照群として設け、そちらには週に10時間かそれ以下のABAを実施。)ロバースは、高頻度の療育を受けた子供のおよそ半数が回復し、低頻度の比較対照群の子供は誰も回復しなかった、と主張しました。その研究は研究方法上の問題のため、懐疑的な目で受け入れられていました。たとえば、回復したとみなす基準が、「普通の」教室で1年生を終えること、少なくとも平均のIQを示すこと、というのでは低すぎるのではないかということが批判されていました。また、療法自身も、それがある部分においてはかん高いノイズや平手打ち、時には電気ショックなどの「嫌子」に頼っているという点で非難されました。その後90年代には、人々の強い抗議を受け、ロバースと彼の弟子たちのほとんどは嫌子を用いることをやめるようになりました。

その後に続いた研究ではロバースのしたような発見は同じ形では再現されませんでした。しかし、集中的な行動療法により、言語・認知・社会性の面について、多くの自閉症児に対して少なくとも多少の、そして一部の自閉症児に対しては大きな改善がなされるということは、研究者たちは比較的早期に確認していきました。いくつかの研究では、時折、自閉症ではなくなる子供がいると主張されましたが、こうした研究は退けられていました。そもそも子供が誤診を受けていたり、回復とされるものが主張されるほど完全なものではなかったのです。

しかし最近のこの18ヶ月間の間に、2つの研究グループが厳密で体系だった研究論文を発表し、その中で、少数ではあるものの確かに一部の子供は実際に自閉症を克服するということを示す、これまででもっともよいエビデンスを示したのです。臨床神経心理学者であるデボラ・フェインのグループによる研究では、Bくんを含む34人の青少年が取り上げられました。この研究では、全員について間違いなく自閉症である特徴を記載した幼少期の医療記録と、今や彼らが自閉症の診断基準を満たさないことが確認され、こうした経過を「オプティマルアウトカム(最良の結果)」と呼びました。また、研究の中ではこの34人を、自閉症の特徴が残り「高機能」とされる44人の青少年や、34人の定型発達の同年代児とも比較しています。

別の研究では、85人の子どもについて2歳での診断からおよそ20年に渡って追跡調査し、そのうちの9パーセントが障害の診断基準を満たさなくなったことを発見しました。この研究グループのリーダーで、自閉症の診断・評価分野の高名な研究者であるキャサリン・ロードは、そうした自閉症ではなくなった人のことを「ベリーポジティブアウトカム(とてもプラスの結果)」と呼んでいます。

自閉症の専門家たちはこれらの研究報告を歓迎しました。心理士であり研究者でもあるジェラルディン・ドーソンは、「私たちの中で、自閉症の子供と密に関わっている人たちは、このようにはじめは自閉症を抱えているけれども成長過程のなかでそうした症状が完全になくなる子供達のグループがいることを実践を通して知っています。こうした子供のことはこれまでにずっと疑問視されていましたが、この研究ではとても入念で体系だった方法で、そうした子供達が実在することが示されました。」と語ります。彼女や多くの同僚の患者のうち、10パーセントかそれ以上が、症状を持たなくなったと見積もっていると言うことです。

こうした発見は、アメリカ全体で自閉症ケースの数が急速に増加しているかのように見える今日になされました。自閉症の有病率に関する全国的な統計研究はないものの、ある部署の最近の研究では、子供の68人に1人が自閉症を抱えているということであり、2年前の88人に1人という数字から増加しています。専門家はこうした数の増加を、主に障害に対する認識の向上や、診断基準の拡大によるものと考えています。また、一部に研究者たちは、これに加えて化学物質や両親の高齢化(晩産化)などもまた自閉症の増加に寄与していると主張しています。科学者たちは、一口に自閉症と呼ばれるものが、実際には異なる遺伝的・環境的原因を持つ、それぞれに違いのある状況のまとまりであって、それがたまたま似た症状を呈しているのではないかとも考えています。もしそうであるならば、なぜ一部の子供が大きく成長する一方で、ほかの子供はゆっくりなのかということを説明しやすくなります。

これらのフェインとロードによる研究では、自閉症の原因が何であるかや、一体どんな要因でその症状がなくなるのかについて、特定することは目指されていません。ただ、ときどき自閉症が消える、ということを調べているだけです。とはいえ、IQの役割など、いくつかの手がかりらしきものはあります。ロードの研究では、2歳時点での非言語性IQが70以下だった子供は皆、自閉症のままでした。しかし非言語性IQが70以上だった子供のうち、4分の1は、診断時点での症状の強さが他の同じくらいのIQの子供と同じくらいであったにもかかわらず、徐々に自閉的でなくなっていきました。(ただし、フェインの研究では、研究計画上、少なくとも平均以上のIQの人のみが対象とされています。)また、別の研究では、高い運動機能を持つ子供や、言語理解スキルを持つ子供、人のマネに意欲的な子供が、自閉症ではなくなりはしないにせよ、早く成長する傾向があると示されています。早期、特に療育を開始した一年目に目覚ましい成長を遂げる子供についてもこうした傾向が見られ、このことは彼らの脳の何か、あるいは彼らの自閉症の種類のようなものが、よりよく吸収していけるようにしていることの印ではないかとも考えられます。研究者たちによると、両親の関与、例えば子供の権利を守るように訴え、サービスを求め、家でも子供と課題に取り組むことなども症状の改善と相関しているようだと言います。また、紛れもなく、経済的基盤もプラスに働きます。

しかしながら、現時点ではこうした発見はまた手がかりに過ぎません。フェインはこう語ります。「これまで自閉症の子供達を40年研究してきて、うまくやってきたという自負もあります。でも、初対面での印象から、誰が良くなって、誰が良くならないかということを見通すことはできないんです。本当のところを言うと、オプティマルアウトカム(最良の結果)となる子供が誰かがわからないばかりじゃなくて、誰が高機能自閉症になり、誰が知的遅れを持った自閉症になるかさえもわかりません。まだわからないことが多すぎるんです。」


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